五色温泉はムフフ

赤貧　昔話

其の壱　五色温泉はム・フ・フ･･･

まず、むかし、むかしのお話であるという御断わりを申し上げてから本題に移りたい･･･。

　当時から私はいわゆる“カラーフェチ”でありました。ある特定の色に無条件に虜になってしまう…。フェラーリの赤、山崎浩子の青・黒レオタード、そしてその時はなぜか、寺崎組長の黄色い短パンだったのです。アウトライダー誌上をさっそうと駆け上ったその蛍光イエローの短パン姿は、北海道の風を感じさせるには十分過ぎる程の旅心溢れるものでありました。

著者近影

誘蛾灯にふらふらのカナブンの如くやって参りました北海道はニセコアンヌプリ。九月の山頂には、缶ビールの泡をも静めさせるだけの冷気が満ちておりました。力強く突き上げた左手のアルミニューム缶の彼方にはエゾ富士羊蹄山が鎮座ましましておりました。
　登山口のキャンプ場に戻ると三重ナンバーのバイクが止まっていました。ジャニーズ顔のＫ君は齢ハタチの好青年の見本のような旅人でした。同県人のよしみもあり隣にテントを張り、飲み食いする内に風呂にでも行くか、ということになりました。
キャンプ場の脇には五色温泉という硫黄の香りに満ち溢れた露天風呂がありました。しかしながら当時の私の財政状況はひっぱくしておりまして、数百円の入湯料をも惜しむ毎日でした。当然貧乏智恵というものが発達いたしまして、夜陰に乗じて裏の石垣を乗り越えればフリーパスという知識も持ち合わせておりました。先客のオジさんに『タダ風呂かい？』とからかわれつつも、めでたくトロトロの湯に浸ることと相成りました。

Ｋ君と二人でぬるめのお湯を独占しているところに、脱衣所の方からガヤガヤガヤ、キャッキャッキャッと言う女性団体様ご一行の入場と相成りました。
　嬉しくも目出度い混浴への期待に、まだこの後の悲劇を知る由も無い我が愚息は、早くも潜望鏡深度一杯にまで浮上させ、観音様を拝まんとする模様を見せておりました。肌もあらわなご婦人方は総勢八名。二十代から五十代までとおぼしき、年代別代表選手権の様相の御一行様でした。

かなりお酒をきこしめされておる模様で、むなぢはすでにピンク色に染まっておられました。『おにーさん方はどちらから？』というお決まりのファーストコンタクトがきっかけになりました。マリオ髭（当時）の私の周りに三名が、ジャニーズＫ君には五名が群がっておりました。お話によれば御婦人方は某すすきのの飲食業者の組合での慰安旅行の参加者とのこと。
さもありなん。『お髭、ステキね。』二十代の手が頬に。四十代と五十代の手の動きは水流となって、我が愚息の飾り毛に感じとられておりました。ああ……。
　この後は御婦人たちの部屋でのバトルロイヤルか、という考えも頭をよぎりましたが、登山直後の体力はシュラフでの安眠を選択しました。『さっきから腹の具合が…』愚息を押さえての敵前逃亡には、後ろ髪を引かれるものが少々有った事をここに告白いたします。
三十分も経った頃キャンプ場への坂道をふらりふらりと上ってくるＫ君の姿がありました。青ざめたその顔を眼前にした時、なんの言葉もかけられなくて…。寂しそうにテントへもぐりこむＫ君の背中が印象的なニセコの夜でした。

　それ以来Ｋ君との音信はありません。あの一夜が彼のその後にどんな影響を及ぼしたのか、今となっては知る由もありません。同胞を見捨ててしまったという少々の後悔がこの文を書かせているのかも知れません。

ああ…！悲劇の黄色いパンツ。おわり･･･

記　赤貧こと森川朗

このページに関するお問い合わせは こちらまで。

寺崎組ロゴ